自由と強さと(ロードストーム×クロミア) ――kiss series
※ほんのりクロミア→マスメガ(マスガル)様有り。
場所は地球。静かに波打つ海の上。
「何も起こらないと流石に退屈ね〜」
マスターガルバトロンが倒されてから数日。平和を取り戻した宇宙。この地球も当然平穏を取り戻しはしたが、激戦を繰り広げていたあの頃に比べるとただ時間だけが流れていく。
「面白い事ないのかしら?」
トランスフォーマーにとっては半永久的に存在する時間。だけど何もせずに過ぎていくのはどうも性に合わなかった。
何かが違う。刺激が欲しい。
「あ……」
ふと目を向けると、目に入ってきた見慣れたオレンジ色が目立つオートバイ。誰も乗っていないそれが海岸沿いの道路を走っていく。
「…………」
暫く考える。退屈よりマシかもしれない。
「ロードストーム〜」
どこかで聞き覚えのある声が自分の名を呼んでいる。声のする方を見ると道路下沿いの海上を進む見慣れた工作船。
「なんだクロミアじゃねえか、どうしたんだ」
宇宙が危機に面する以前は何かと接点はあったが、そこから去ってしまった彼女。恐らくこの先つるむ事はないだろう相手に疑問を向ける。
「別に〜。あんたが見えたから来てみただけ〜」
「はあ?」
曖昧な答えに思わず立ち止まる。同じく止まったクロミアが海上で揺れている。
「HEY、HEY! 一体どうした?」
「何でもないわよ、ただ退屈なだけよ!」
語尾が強調された返事。フン、と少し機嫌が悪い様子。そんな彼女に小さく息を吐く。
「……上がってこいよ」
俺も丁度退屈してた所だ、とロードストーム。
「たまには昔話に華を咲かせようぜ」
「なにそれ……」
そう言いつつも否定は無かった。ロボットモードにトランスフォームしたクロミアがロードストームに対面する形で地に足をつく。久しぶりに間近で見るスレンダーな体型は相変わらず見応えがあって、口笛を鳴らす。
「昔話って何よ」
「別に。好きに話せば良いんじゃねえ」
返ってきた言葉にクロミアは肩を落とす。
「好きにって言われても、昔に対してそんな想いはないわ。過去を振り返るなんて好きじゃないのよね……」
今が良ければそれで充分じゃない、と口にする。
「お前のそういう所、好きだぜ」
「それはどうも。あんたに言われても嬉しくないけど……」
溜め息をつくクロミア。あの時と同じ答えが返ってきてロードストームは小さく笑う。
「でも、忘れちゃいないんだろ?」
あの強さを。静かにかけられた台詞に彼女は無言で宙を眺める。ベクトルは違えど自由に対する各々の考えがそこにはあった。
「私、間違ってたのかしら……」
あの人の強さに魅せられて、あの強さのある世界を願ってしまったこと。その先に自分の求める自由があると信じてしまったこと。
「変わってしまったわ……」
マスターガルバトロンになって圧倒的な力を手に入れてからというもの、自分達の存在など要らなくなったかのようで。マスターメガトロンの時はまだ各々の行動に目を向けてくれていた部分があったから救われていた。
「ねえ、私……」
もう消えてしまった存在にどうこう言うのは可笑しいかもしれないけれど、感情的になった心が肩を小さく震えさせる。そこへ繋がる腕を握る手があった。驚いた顔が相手を見詰める。
「ロードストーム……?」
「ただの暇潰しだ」
彼女からしてみれば一回りほど小柄な彼がうっすらと微笑んで言う。どういう訳か拒む事は忘れて、近付いてくるのを受け入れる思考。
「……そうね、暇潰しよ」
焦点の合わなくなった視界にぼやけて映る相手の顔。ちゅ、と小さく音が鳴る。
「お前ちょっとしゃがめよ」
「もう……これだから小さい男は……」
一度離れたロードストームがやりにくい、と漏らすと、クロミアは溜め息をついた。だけど止める事はしない。
彼女が膝立ちすると高さのあまり無くなる二人。再び接近する唇。
その小ささに似合わず流石と言うべきか巧みな彼。アメリカンで自由気ままな彼だからか、自分が相手だからか。優しく扱われて自惚れそうになる。
「あの人はこうはしてくれなかったわ……」
自分達ではなくて、その先にあるモノをいつも求めていた。それを目指せば目を向けてくれたから、同じ想いを口にすれば喜んでくれていたからそうしていた。だけど本当に欲しかったものは一度も与えられなかった。
「皮肉ね……何が私の自由だったのかしら……」
自嘲気味な笑み。そんな彼女の顎をすくってロードストームは視線を合わせる。
「らしくねえな」
「何よ、その知ってる口……」
そこまで言ってクロミアは、あ、と何かに気付いた様子。
「わかった、私があんたを好きじゃない理由。全てを見透かされてる気分になるのよ」
いつからなんて忘れてしまったが、遠い昔からなにかと近くにいた存在。腐れ縁とも言える関係は互いの事をよく知り過ぎていて。
「HEY、HEY、良く言えば理解してんだぜ?」
「良く言い過ぎ」
苦笑するクロミア。
「あんた本当に私のこと好きなの?」
「ああ、好きだぜ」
「どんなとこが?」
「イイ女だ。性格はまあなんだが」
「余計なお世話よっ」
「それにお前はお前で自由を愛している」
「自由、ね……」
いつしかそこに強さが加わってしまったけれど。
「俺達が生きてきた目的は何も変わっちゃいねえ。忘れていない、それだけでも俺は認めるぜ」
向けられる強い、だけど優しげな視線。ふうん、と口にした彼女は珍しくどこか照れた様子で、見詰めていた先から視線を外した。
「お礼は言わないわ」
「お前に期待しちゃいねえよ」
「なら良かった」
こんな関係でいられるのはきっと彼だからなのだろう。
「そういやサイバトロンの奴等がなにやら宇宙に旅立つ計画を立ててるらしいぜ?」
「あらそう」
私には関係ないわ、と口にしたクロミアの反応は想像していたもので、ロードストームはとりわけ驚きはしなかった。むしろ違う考えが彼女の中には在るんだと判っていたから。
「俺はサイバトロンの奴等について行こうと思ってる」
「へえ珍しい、誰よりも自由を愛するあんたがね」
「まあ楽しかったしな。お前はどうせまた強い奴探しに行くんだろ?」
かけられた言葉に振り返る彼女。意識していなかったのか少しポカンとした顔がそこにはあった。
「そうね……そうしようかしら」
次第に確信したように口に笑みを浮かべる。
「それでこそクロミアだ」
その時のロードストームは嬉しそうに応えていて。
「やっぱりあんた好きになれないわ……」
「お〜、悲しいねえ」
そう言いつつも残念がってはおらず、クロミアは呆れたように息をつく。
「あんたもバカよね、私みたいな嫌な女にいつまでも構って」
「そうでも無えよ、俺は俺なりに楽しんで自由にやってる」
「そこがバカって言ってんのよ」
「HEY、HEY、イイ女からの罵りは最高の賛美だぜ?」
「あんた何でそんななの……」
頭を抱えて盛大に肩を落とすクロミア。その明らか様な姿に目を向けたままロードストームはポツリ。
「お前の魅力を判ってんのは俺だけでいい……」
「……ん? 今何か言ったかしら?」
「何でもねえよ」
“何も言ってない”ではなく“何でもない”という部分に引っ掛かりはあったが、深く気にせずにクロミアは姿勢を正した。
ピンと伸びた肢体。腰の曲線とその下の丸みが太陽の光を反射し、より強調されているように見える。やはりイイ女だ。
「もったいねえな」
心底思った、彼女が誰かのモノになるなんて勿体無い。だからそのままでいて欲しいと願った。誰にも奪われはしないその厄介な性格のままでいて欲しいと。
「行き遅れたら俺が貰ってやるよ」
その言葉の裏にあるもの。自由を望む者が帰ってこられる場所。
「そうね、そうならない事を祈るわ」
丸っこい目を細めてうっすら笑みを浮かべるクロミア。性格を知らなければ見た目だけでは充分可愛らしさを持っている。
「まあ、あんたも頑張んなさい」
最後にそれだけ残して彼女は海へ飛び込み、どこかへ消えてしまった。
姿の無くなった海面を眺めるロードストーム。暫くしてビークルモードへとトランスフォームする。
そして彼も行きかけていた道を再び進んでいったのだった。
<終>
***
プチバレンタイン〜ホワイトデー企画『それぞれのキスの仕方』シリーズ。
ロドスト→クロミア→マスメガ(マスガル)様。
ロドストはそれを理解した上でクロミアへの好意を口にしていて、クロミアもそんなロドストをわかっているんだろうなと。
古くから知っているロドストとクロミアだからなれる関係。
そして約半分近く身長差のあるロドストとクロミア。そんな色んな意味で凸凹な二人がなんかイイ。
アニメGFクロミアはお尻と太ももだけはもっと評価されるべき。
しかしあれだなあ、ロドストとライブさんとオトボルに「タイプじゃない」と言ったクロミアは男見る目無いなと思った。それぞれ味があって良いじゃないか。
だからこそGFクロミアなんだろうな。
もちろんマスメガ様は別格です。
DVD12巻パケ絵のクロミアが実に幸せそうだ。
2012.02.13 up