the awakening of...

※スターシップムー発掘から戻った後の話。なのでインチアップは直接出てきません。インチとソニボン中の人繋がりネタ持続。


 やっと発掘したムーと共に帰還すると、出迎えてくれたサイバトロンの仲間。
突然こんなものと一緒に現れた事に驚きはあっただろうが、喜ぶ者達に身体を張ってでも見付け出せて良かったとオーバーライドは心から思った。
「すげーじゃねえか!」
真っ先に駆け付けてきたファングウルフ達より少し大きめの身体をした人物。聞き慣れた声色に似た波長が音波収集装置に伝わる。
「これで大方準備は整ったな」
やるな、とガードシェルが言う。重要な時に勝手な行動をしていたにも関わらず、責めてこない彼等の心意気には感謝してもしたりない。


 時空を抜ける為のプログラムインストールが始まった。ベクタープライムの指示に並ぶ一同。
「まるで予防注射みたいね」
ライガージャックとガードシェルの会話を聞いていてローリがクスリと笑う。
「ねえ、オーバーライド」
インストールを済ませた彼女にローリが声をかけた。
「よくこんなもの見つけ出せたわね」
スターシップムーの事を言っているのだろう。
「手伝って貰ったの?」
「ああ。きっと一人では無理だったよ」
そう答えると小さな彼女はへえ、と漏らした。
 そこに割って入ってきた声があった。
「つーことは、久しぶりに仲間に会えたんだな」
言われた事にオーバーライドは相手を見詰める。目の前の事に夢中で、そんなこと気にしていなかった。
「お前の星って、どんなとこなんだ?」
加わったのが遅かった為か興味ありげに訊いてくる。そんな彼――ソニックボンバーから視線を外してオーバーライドは答える。
「良い所だよ。走るのには最適だ」
走るために特化した惑星。走る事こそが我々住人の生き甲斐であり楽しみであり。
「オーバーライドの速さは凄いんだから!」
ローリが笑顔でソニックボンバーに向けて言う。
「いいねえ、そういうの好きだぜ!」
何気無しに口にされた感想は似た波長を含んでいて、錯覚を生みそうになった。
しかし有り得なくて苦笑する。
「言うはず無いよ……」
ポツリと呟く。そんな彼女に不思議そうな顔をする二人。
「オーバーライド、なんか変わったね」
「え?」
ローリの台詞に振り向くと、微笑む彼女がいた。 言われた意味をいまいちよく出来なくて相手をまじまじと見る。
「惑星スピーディアで何かあった?」
その時、何故だか先ほど思考の中にいた人物が再びメモリー上に現れた。どうして思い浮かんだのが彼なのか。
胸に小さく灯る暖かさの理由はまだはっきりとは確信できないが、嫌な気はしない。むしろそこから全身にほんのり広がる熱。
「あったの、かな……」
オーバーライドにしては珍しく歯切れの悪い返答。ぼんやりと宙を見詰めながら彼女は言う。
 惑星スピーディアに帰っていた時の事を、彼とのやり取りを思い出すと、穏やかでちょっぴり嬉しい気分になって、だけど少し心の奥が締め付けられるようで。 この気持ちはやはり、そういう事なのだろうか。
「初めてだったんだ、あんな風になれたの……」
彼とあんな風に話した事も協力しあった事も。触れた事も。それ故に生まれてきた感覚だった。
「どうなんだろう……」
静かに言う彼女にローリが近付いて、その足にそっと触れる。
「ゆっくりで良いと思うわ。わからない事って必ずあるもの」
「ローリ……」
優しげに微笑むローリ。小さな彼女はその身体のどこに秘めているのか、とても強い意思を持っている。 だけど脆くいつか消えてしまいそうで守りたくなる存在。
「そうだね」
時空を越えるのはこれからで、どうせ暫く会えはしない。ならばゆっくり考えるのも悪くはないだろう。
「大丈夫、あなたなら。きっと答えが見付かるわ」
全ては話していないにも関わらず繋がれる言葉には芯があって、確かな力があった。ちいさな彼女たち人間の感情に対する読解力は凄いものがある。
「ありがと、ローリ」
「いいえ、悩んだ時はお互い様よ!」
オーバーライドが微笑み返すと、ローリは嬉しそうに応えた。
 少し軽くなった気分にふと思い出した存在。顔をむけると視線が合う。
「いつか一緒に走ってみたい」
君と、と伝えるとソニックボンバーは一瞬驚いたようだったが、その表情はいつもの隙のない顔に変わった。
「おう、良いぜ!」
ニッと笑って言う翼を持つ姿。空中と地上とでは割に合わないかもしれないけれど、そんなの関係なかった。今は走る事が最大の歓びだから。
「あいつもいつか走ってくれるかな……」
勝者の立場の自分に対するレースや対抗心ではなく、単純に横に並んでくれる日は来るのだろうか。彼はそういう風に自分を見てくれるだろうか。
まだ出る事のない答えを思い浮かべて、誰に言うでもなく小さく呟いた。
 いまだメモリー上に浮かぶ存在。そいつに仄かな意識を向けながら、オーバーライドは新たな惑星への期待に胸を踊らせていた。


<終>


***
短めですが、オーバーライド姐さんが自分の気持ちに気付き始める話でした。

オバライ(ニトロも)は若いが故にローリに頬を染めたそうで。 リーダーなオバライ姐さんにそんな初々しさがあるって知ったら断然可愛く思えてきます。性格イケメンだから尚更。

本編でオバライの足に手で触れるローリと、それに気付いて振り向くオバライの二人ががめちゃんこ可愛いので、ここでも使ってみました。


2011.12.02 up