変わらない

※ソニックボンバーが地球に来てからの話。
インチアップとソニックボンバーの中の人繋がりネタ。


 突如現れたそいつはどこかで聞いた覚えのある声で、オーバーライドは何故か懐かしさを覚えた。
周りが言うには凄い経歴の持ち主らしい(悪い意味で)が、もともとサイバトロン軍に所属してはいなかった彼女にとってはどうでも良い事。
考えるよりまず行動、猪突猛進、力ずく、無理矢理。なんだか馴染みのあるその性格ばかりに気がとまる。
――ああそうだ、アイツに似ているんだ。
惑星スピーディアの、技量はいまいちだがガンガン攻める姿勢は崩さない男。インチアップ。
大きく違うのはソニックボンバーの持つ圧倒的なパワーとスピード。敗けを知らない姿勢。
「サイバトロンにもこういう奴はいるんだね」
 笑いを含んだ言い方でギャラクシーコンボイにオーバーライドが言うと、彼は参るよと言いたげに苦笑して相槌を打った。
「あの速さ、気に入った」
飛行型だから当たり前かもしれないが、誰よりも速く飛ぶ姿は目を惹く。
「まさか、あいつとレースする気なのか!? やめとけって!」
割って入ってきた声はエクシゲイザーのものだった。
会って早々、発砲された事をまだ気にしてるらしい。
あの時は少し驚いたものの、その威勢の良さに思わずこっそり笑ってしまった。
それを知ったらきっと不貞腐れるだろうエクシゲイザーの姿が容易に浮かんだので、あえてオーバーライドは口にはしなかった。
「流石にレースはしないよ。空中と地上じゃ割に合わないしね。だけど、一緒に飛ばしてみたくはある」
そう答えるとエクシゲイザーは、よくあんな奴と走る気になるな、と溜め息混じりに呟いた。
「あの時は戦闘真っ只中だったからだろう。戦闘外だったら違うさ、意味も無く撃って来ないよ」
現に仲間となり行動を共にしている今、彼は無闇やたらと撃ってこない。
 そういえばアイツもそんな性格していたな、とふと思い出しす。
レースになるとやたらとちょっかいを出してきたり、力ずくで何かしらしかけてきたりと、しつこいくらい攻撃的。
だがレース以外では攻撃どころかまともな会話を交わすことも無く、必要最低限でしか顔を合わせてこようとはしなかった。
惑星スピーディアでは住民の性質上ひとりで行動する者は少なくはなく、そうなるのは必然な場合もあった。
なんせリーダーであるオーバーライドからしてそうしていたのである。
レースが殆どを左右するあの星ならばそれも風潮と言えたのかもしれない。
「だけど、変わったね……」
勝者の座に長年居座り続けていた為に出てきていた傲慢な態度。自分勝手な振る舞い。
他者とのレースはただの退屈しのぎでしかなかった。
 そんな時に現れたサイバトロンの奴等。
接していくうちに気付かされた大事なモノ。生まれた故郷を守るのは自分自身でしかない事。
ならばいっそのこと直接立ち向かってやろうと思った。
リーダーだった自分が居なくなっても任せられそうな者達が少なからずいたから、遠慮なくあの星を飛び出せた。
うち一人は引き受けてくれたかどうか少し怪しいけれど。


 グランドブラックホール消滅作戦に続いてスーパースタースクリーム撃退ののち、惑星ギガロニアへのルートをベクタープライムが見付け出したとの連絡が入った。
ベクタープライムからの説明かされ、その後時空の壁を越える為に必要なプログラムが完成するのも時間の問題だろうと知らされる。
「流石だね。ここまで来れば心配は少ない」
目の前のモニターを眺めながら呟くオーバーライド。
しかし一つ気になる事があった。
「ところで、ギガロニアへどうやって行くの?」
疑問を口にすると、通信画面越しのファストガンナーとバックギルドがそこなんだ、と答える。
『私達サイバトロンは元々スペースブリッジやベクタープライムの能力を使って惑星間を移動してきた』
『なので、皆が一斉に時空を越えられるような巨大な乗り物を持ってないんです』
「巨大な乗り物、とはどういったものが最適なんだ?」
それを聞いてバックギルドはパネルを操作しながら答える。
「やはりアトランティスくらいはあった方が万が一の時に安全かもしれません」
「と言っても、そんな馬鹿デカイものがそうそう見付かる訳ないだろうし……」
「はい……。造るにしても労力や時間がかなり必要になってきますし、今はそんな時間ありません」
返ってきた台詞に、はあ、と息を吐くオーバーライド。
諦めかけていると、ふとある事を思い出した。
「そうだ、訊きたい事があるんだけど」
『どうした?』
「……内密にして欲しいんだ。そっちで話しても良いかな?」
画面先のバックギルドとファストガンナーに言うと、二人は何事かと少し驚いたような顔をした。
『別に構わないが、どうしたんだ?』
「ちょっと気になる事があってね」
真っ直ぐ画面を見据えるオーバーライドを二人は不思議そうに眺めていた。
 そうしてオーバーライド一人やって来たメインコンピュータールーム。
中に入ると先程まで通信していた人物がそこにはいた。
疑問の色を隠せない二人に早速話しを始める。
「私たち他の惑星の先祖は遥か昔にセイバートロン星からやってきたとわかったよね?」
「はい、スペースブリッジを完成させる為に各々惑星へ旅立ったと」
「惑星スピーディアで語り継がれている伝説があるんだ。遠い昔に地に降りた巨大な飛行船が惑星のどこかに眠っている、と」
言われた事に顔を見合わせるバックギルドとファストガンナー。
ただの伝説かもしれない。あったとしても見付け出せるのかさえ検討がつかない。
「確率は無いに等しいかもしれないけど、少しでも可能性があるんだったら探してみる価値はあるんじゃないかなって思ったの。私一人居なくなっても大丈夫だったら、暫く探しに行かせてくれない?」
変わった。心底思った。
こんなにも速さ以外に懸命になれるなんて、オーバーライド自身不思議でならなかった。
「でも、成功するかわからないし、こんな時に勝手な行動をしてしまうのは申し訳ないから、皆には内緒にしていて欲しいんだ」
それに自信有り気に行って失敗したらカッコ悪いじゃない? そう続けると、どうするべきか指示を待つバックギルドの視線がファストガンナーに向けられる。
ファストガンナーは暫く何かを考える仕草の後、モニターを操作し始めた。
「発見されたアトランティスからは特殊な電波が微弱ながら出ていて、それを頼りに今は捜索を続けている」
ノイズメイズ達が何やら細工してなかなか感知できなくなってきてはいるが、と付け加える。
「もしかしたら、その電波を頼りに捜し出せるかもしれない」
言われた内容にオーバーライドはファストガンナーをまじまじと見た。
モニターに向かうファストガンナーが無言で何やら操作に集中してしまった為、沈黙の間が空いて次に何を言われるのかと緊張が辺りを包む。
暫くの後、やっと振り向いたファストガンナーがオーバーライドの手渡したのは、一つの小さな機械だった。
「既存の機械に急ぎで機能追加してみただけだから大した能力は期待できなくて済まないが、少しは飛行船捜索の手助けにはなるだろう」
「ファストガンナー……」
「例え先祖はサイバトロンだったとしても、貴女は既に惑星スピーディアの住人でリーダーだ。あの星が生まれ育った大切な故郷であることに変わりはない」
優しげに微笑みながら繋がれるファストガンナーの言葉。
「私達に気兼ねする必要は無い。とことん探してきて貰いたい」
それでも駄目だったら次へ行けばいいさ。そう口にするファストガンナーから目を離して、オーバーライドは手の中の小型機械に視線を向けた。
「そうですね! 諦めが悪いのがサイバトロン軍です!」
続けてバックギルドの声。
その声に頷きファストガンナーが指示を出す。
「バックギルド、セイバートロン星と惑星スピーディア間のスペースブリッジ状況は?」
「はい、まだ不完全ではありますが、繋ぎ繋ぎであれば何とか辿り着けると予想出来ます。そうするにはタイミングが非常に重要です」
モニターパネルを操作しながら確認し合う目の前の二人。
その頼り甲斐のある後ろ姿に思わず見入ってしまった。
彼らも変わった。
変化したのは何も自分だけではない。皆、少しずつ変化しながら生きているんだ。
「俊敏さと判断力が必要になってくる。かなり難しいが、イケるか?」
訊かれてオーバーライドはニヤリと勝者のする顔。
「そんなの訊かれるまでも無いな」
「オーケー。後は私達に任せてくれ」
「惑星スピーディアまでの安全ポイント確保。F57地点に電磁スロープを繋げました。直ぐにでも向かえます」
「ありがとう、感謝する!」
「気を付けて行ってきてください」
「幸運を祈るよ」
見送る視線を背にオーバーライドはスペースブリッジへと進んで行った。


 時刻、数メガサイクル後。
途中、時空の歪みに直面したものの、運悪は回避でき無事に惑星スピーディアへと辿り着けたオーバーライド。
「幾度か危機はあったけど、私の速さの前ではどうって事無かったね」
少し高い位置に繋がった電磁スロープの上を走行しながら一人呟く。
久方に見る我が故郷は去った時と何一つ変わらぬ姿をしている。
広がる空も大地も続く道路もあの時のままで、一瞬だけ宇宙が破滅へと向かっている事を忘れさせた。
この惑星スピーディアの未来と向き合って生きている者は、この星に一体どれだけいるのだろうか。
「と、いつまでも浸っている訳にはいかないな。早く探し出さなければ」
早速ファストガンナーから受け取った機械を取り出してスイッチを入れてみる。
しかし当然ながら反応は無い。
「そう簡単にはいかないね」
さてどこから捜そうかと辺りを見渡していると、電磁スロープが続く先方、少し離れた道路上に見知った物体が目についた。
「ナイスタイミング」
直ぐ様駆け寄り、二人の目の前に飛び降りた。
「オートランダーにスキッズ、良い所にいたよ」
「オーバーライド!」
「お前さん、一体どうしてここに!?」
驚くのも無理はない。彼らの中ではオーバーライドはすっかり宇宙の彼方にいるはずである。
「やりたい事が出来てね」
最後のフォースチップが見付かりそうな事、そこに向かう為に巨大な乗り物が必要な事をざっと説明する。
「それでこの星に伝えられているムーを捜し出してみようと思って」
「ほう、そういう事じゃったか」
納得したようにオートランダーが頷く。
流石である。伊達に長生きはしていない。
そう言ったら怒られるだろうが。
「でも、伝説だよ? 見付かる当てはあるの?」
スキッズが不安を口にする。
それもそのはずだろう。必ず有ると言える確証は無いのだから。
「ああ。探査機的なものは造って貰ったんだが、正直なところ発見への道は無きに等しい。それを承知で君達に手伝って欲しいんだ」
向けられる真剣な眼差し。それに応えるようにオートランダーとスキッズは一度顔を見合わせて頷いた。
「良いぞ、どうせ走る以外は暇じゃしな」
「結果がどうでも、やらないよりやった方が断然良いよ!」
「ありがとう、二人とも……!」
かなりの無茶を申し出ているのに、受け入れてくれた事にオーバーライドは感謝した。
「ところで、発掘に力数は足りるのかの?」
ふとオートランダーが聞いてきた。
「人数はいる方が有利だが……」
探すのに人手は多いにこしたことはない。
だが今の状況下、彼らが協力してくれるだけでも充分有難かった。
しかも今から募るには都合が悪い。
時間が惜しかった。欲は言っていられないのだ。 「あやつでも多少の役には立つじゃろうて。スキッズ!」
「オッケー!」
オートランダーに言われてスキッズがなにやらし始めた。
そのやり取りを不思議そうに眺めるオーバーライド。
微かに聞こえる会話から、どうやらどこかに無線を入れているらしい事が伺える。
 暫くの後、騒がしい声と共に現れた影。
「おい、じいさん! 突然来いって何だよ!」
まさか彼が現れるなんて驚いた。
紫と緑にダークレッドの巨大なタイヤのその風変わりな機体を見間違えるはずはない。
「……え?」
目に映る人物を認識した彼も驚いた表情で駆け寄ってきた。
「オーバーライド!? 何でお前こんな所に! つうか、こいつ本物か?」
騒がしく独り言のような内容を言い始めたインチアップ。
「本物だって。ちょっとやる事が出来て帰ってきたの」
「へ〜。何だそのやる事って?」
珍しく質問をしてくるインチアップにオーバーライドは意外げに目を向ける。
「……君こそ何してたの?」
「あ? 俺はじいさんがただ走っとけって言うから、走ってただけで……あ! じいさん、話って何だよ?」
息つく間も無くオートランダーへと振り向く。
その落ち着きの無さにオーバーライドは小さく苦笑い。
――ああ、違う。ソニックボンバーとは違う。コイツはコイツ、彼は彼なんだ。
しかも口振りから察するに、どうやらオーバーライドがこの星を旅立つ時に残した言葉を彼は拒まなかったようだ。それに気付いてほんのり心が温かくなる。
「簡潔に言うとじゃな、ムーを掘り起こすぞい!」
「マジ簡潔だなオイ!!」
オートランダーがインチアップにものすごく簡単に説明すると、言われた本人か らすかさずツッコミが入った。 しかも参加・不参加に対する選択の余地無し、半ば強制的とも言える台詞。
いつの間にやら仲良くやっていたようだ。
「でもよ、ムーってただの言い伝えじゃねえのかよ?」
早速、最もな疑問が口にされた。
オーバーライドは一度小さく息を吐いて一同を見る。
「私がこの星を出た後しばらくして、サイバトロンの故郷であるセイバートロン星に降り立ったんだ」
不意に話し始めると、三人の視線が彼女に向く。
「そのセイバートロン星が創造主プライマスだったんだけど、彼が言うには元々トランスフォーマーはセイバートロン星に住んでいて、遥か昔にスペースブリッジ計画の為に飛行船で四つの星に旅立って行ったらしい」
「つまりそれって……」
「ムーはその時の飛行船だった、と言うことか。なるほどな、それなら説明がつくのう」
「なんか凄えな……」
常識を逸脱した内容に一同はビックリしてはいるが、否定は無く少し安心する。
「だから絶対に無い、という訳じゃないみたい」
「なんだよー、それならそうと先に言ってよね!」
「ごめんごめん、言うタイミングを逃しちゃってね」
スキッズの高めの声に応えた後、オーバーライドは例の機械を取り出した。
「ムー探索の為にってサイバトロンに造って貰ったんだ。これがあれば多少は見付け出し易いかもしれない」
「へー、サイバトロンの奴らって凄かったんだな」
手元の小型探査機をまじまじと見ながらインチアップが感心の意を述べる。
「この辺りには反応無いみたいだけど……」
「この星も意外と広いしのう」
オートランダーが辺りを見渡す先にオーバーライドも目を向ける。
レースではたすら走るだけだったこの地。
改めて見渡すとその広さが良くわかる。
「ま、手当たり次第にやるなら任せろよ」
「インチアップ?」
「認めたくねえけどやっぱり単純に速さだけならアンタの方が上だし……。だけど砂場や岩肌なら俺の方が適役だ!」
ニッと笑って言うインチアップに驚きの視線を向ける。
彼の事だから、多少の抵抗はあったはずだ。それは惑星スピーディアのリーダーであるオーバーライドが絡めば尚更。
だが、そんな彼が今は協力してくれようとしている。
「変わったね……」
皆、少しずつ変化している。
彼もまた、サイバトロンやオートランダー達に影響を受けたのだろう。
「つーことで、それ渡せ!」
「ん?」
「ハッハー! 俺が真っ先に見付け出してやるぜー!」
有無を言わさぬ早さで掌の中のものが奪われた。
奪ったものを手にした彼は素早くビークルモードに変形して、道路脇の崖下へ一人騒ぎながら降りていく。
「取り返せるもんなら取り返してみろ〜!」
「これこれ何をしとる!」
「あ〜! インチアップだめだよ〜!」
同じくビークルモードに変形した二人が彼を追って飛び出して行った。
その光景に頭を抱えるオーバーライド。
「訂正……変わってないね」
むしろその元気は以前より厄介になっているように感じて、今日一番の深い溜め息をついて豪快に肩を落とす。
「でもまあ、たまには華を持たせてあげるのも悪くないかな」
こう言う時くらいにしか見せ場ないし、と然り気無く酷い事を呟きながらオーバーライドもビークルモードへと変形する。
そして先に行った者達の後を追って行ったのだった。

<終>


***
スターシップムー探索の補完妄想話。
思いの外、長くなってしまったので一旦ここで終わり。
インチとソニボン中の人繋がりネタ。そしてこの後ソニボンと仲良くなるオバライ姐さんが意外だったので、このような流れに。
設定にいろいろ不備がありますが、これで精一杯。目をつぶってやってください。

オーバーライドが戻ってきたと知ってから、インチアップ本人は気付いてないけど無意識にテンション上がっちゃってます。そんな彼が可愛い。
探査機奪って行ってしまったインチアップをオーバーライドがたいして気にしていないのは、彼と競争するのに興味が無い為。
レースやスピードに関してはインチアップは今は眼中に無いのです。
だけどそれ以外での性能は少しだけ買ってるオバライ姐さん。そんなオバラインチ。

あと、バクギルとファスガンのモニターやり取りが書いてて楽しかった。


2011.11.10 up