繋がり2
※『繋がり』の続き。場面設定はマスターガルバトロンにやられた辺り。
惑星ギガロニア、今は誰も住んでいない都市内で、無惨にも破壊された建物の残骸が辺り一面を覆い尽くしていた。
その中で無惨な姿で倒れる三つの影。
「あー! チクショウまたかよ!!」
勢いの良い大声で勢い良く上半身を起き上がらせたのはエクシゲイザーだ。
「全くだな」
続いて瓦礫を払いながら溜め息混じりで起き上がったのはファストガンナー。
「でも、少しは手応えがあった。以前とは違って」
最後に寝転んだまま声を発したのはバックギルドであった。
その言葉に他の二人は力強く頷く。
「俺達だってあの頃とは違う、相手がマスターガルバトロンになったからって恐かねぇぜ!」
「さっきの闘いでだいぶやられはしたけどな」
俄然やる気なエクシゲイザーの台詞にファストガンナーは苦笑しながら答える。
「パワーあるねえ。でもちょっと休ませて」
僕エネルギー切れ、と言ったのはバックギルドだった。
「おい大丈夫かよ?」
心配してかエクシゲイザーが座ったまま視線を寄越す。
声だけではやる気ではあるが、彼もエネルギー切れ寸前に変わりは無かった。
「うん、大丈夫みたい。だから先行っててもいいよ」
バックギルドからまさかそんな言葉が出てくるとは思わず、ファストガンナーは驚く。
ずっと無力故に取り残されるのを悲しんでいたのに。
それだけ心身共に成長したという証なのだろう。
「何言ってるんだ、私達は三人いてこそのバンガードチームだろう?」
共に一緒に闘えなきゃ意味が無い。
「そうだぜ、少し休むくらい付き合ってやるよ!」
よっ、と口にしながら立ち上がるエクシゲイザーが言った。
「俺もちょっと休憩すっかな」
フラフラとした足取りで二人の元に歩んでいく。
それに気付いてファストガンナーも立ち上がり、いまだ寝転がったままのバックギルドへ近付いた。
「どうだ、起き上がれそうか?」
「んー、まだ無理そうだなあ。身体中ギシギシ言ってる」
腕をついてなんとか上半身だけは起き上がらせたものの、あまり言うことのきかない身体を示して答える。
その様子にある記憶がファストガンナーの脳裏を過った。
「……やって、みるか? パワーフィルター」
出された単語にバックギルドが静かに相手を見る。
そう遠くはない過去に試した方法。
あの後、再び使用した事は殆ど無く今に至り、互いに向けた視線には微かに懐かしさを帯びていた。
しかし使用する場が決して無かった訳ではなく、使用するのが怖くて使わなかった。
その為、仄かな緊張感が二人を包んでいた。
「なにそのパワーフィルターって?」
妙な空気を解いたのはエクシゲイザーで、ハッとしたファストガンナーが目を向ける。
「他者のパワーフィルター使って調子を回復できるんだよ」
わかりやすく簡潔に説明してやるとエクシゲイザーにも理解できたようで「へー、すげぇじゃん」と感心の台詞を口にした。
「だが接続方法の違いや相性があって無闇には使えなくてな」
あの時は無事にできたが、転生した今は果たして大丈夫なのか確証は無かった。
「じゃあダメじゃないか」
素直な感想を述べるエクシゲイザーにファストガンナーは苦笑した。
「まあ、やってみる価値はあるんじゃない?」
明るい声でそう口にしたのはバックギルドだ。
でしょ? と首を傾げながら視線を向けてきた当人はどこか気だるそうで、それが表情に憂いの影を落としていて、コイツはこんな表情も出来たのかとファストガンナーは目を疑った。
「そうだな、やってみようか……」
あの日の感覚を思い出し、微かに高まる身体と思考回路。
ファストガンナーが精密部分を露にすると、バックギルドも力無い手つきではあるが同じようにする。
「なんか他人のって見る機会無いし新鮮だなあ」
興味津々といった口調でエクシゲイザーが言った。
互いの接続部分に目を向けると、殆どあの日手を加えたままのパワーフィルターがそこにはあった。
「ここはほぼあの時のままなのか……」
生命体故の治癒機能が働いているために細やかな部分は変化していたが、大まかな形は残されていた。
「え、なになに?」
「ああ、転生する前に試した事があったんだ。その時手を加えたんだが、どうやら転生しても変わってないらしい」
「へえ、まじかよ。あんたらいつの間にそんな事」
不思議そうに見ているエクシゲイザーに答えると、驚いた様子。
その反応に少し後ろめたさに似たものを感じてファストガンナーは閉口してしまった。
後は任せるよ、とバックギルドが委ねてきたので、ファストガンナーはお構い無く相手の腹部に手を伸ばした。
そして差し込まれた互いのパワーフィルター。
難なく接続できて、取り敢えずは安心する。
「ん……っ」
バックギルドが小さく声を漏らしたので、心配になるファストガンナー。
「どうだ?」
「うん、これと言って拒否反応は無いみたい……」
一度深く息を吐いてバックギルドは答えた。
徐々に安定していく身体の機能。
同時にあの日のようにじわりじわりと体内に拡がっていくもの。
痛みとも痺れとも似た感覚がそこには確かにあって、身体中を駆け巡る。
ただあの頃とは違うのは、その感覚が少し強めになっていた。
転生して互いの能力が、機能が大幅にアップしたためだろう。
「なんか……すごいね……」
強力になったパルスの信号が各々のパワーフィルターを介して伝わっていく。
「今はハッキリわかるよ、中にいるって……」
生じる感覚に肩を震わせるバックギルドが、小さく笑いながら言う。
その感覚が正確に伝わってきて、ファストガンナーは息を飲んだ。
パタリと閉じられる精密部分。
のそりと立ち上がったバックギルドが身体の機能を確かめている。
「大丈夫そうだ。ありがと、助かったよ」
まだ充分なエネルギーが溜まるまで時間はかかるだろうが、何もしないよりはだいぶ良くなった。
「いやいや、困った時はお互い様さ」
「でもさ、やっぱああいったのは影でした方がいいかもよ。あれも治療の一環だろ? 身体の一部見せてる訳だし、慣れないこっちとしては見ていて何か変な気分だったぜ」
向き合うエクシゲイザーが口にした台詞にバックギルドがハッとする。
「そっか、そうだね」
対してファストガンナーはそんなもんなのか、といった大して気にとめていない顔。
「そうだよね、他の者の目に触れるなんて勿体無いよね」
言われてファストガンナーは何だと思った。
「さっきのファストガンナー、凄く良い表情してたよ」
ボソリと呟かれた言葉に目を見開いて相手を見る。
視線を向けてきたバックギルドは面白そうに、でもどこか意地の悪い顔をしていて。
「……っ!」
不意をつかれた。
身体が熱く感じるのはきっとそのせいだ。
体内により強く残った相手の存在を感じながらファストガンナーは参ったなと軽く頭を振った。
溺れていくのを恐れていたはずなのに、再び試してみたくなった興味本意。
ほんの少しだけと思いながらもそう考えてしまう辺り、やはりもう犯されているのだろう。
一種の麻薬のような感じに似た中毒性があの方法にはあった。
それは想いが強ければ強い程、相手に影響を与えてしまうのだとわかる。
一人の医者として使用した頃はそんなこと無かったのに、今こんなにも影響されているのはきっと相手がこいつだからか。
そんな考えに行き着いてファストガンナーは自虐気味に笑みを溢した。
ここまでわかっていながら、もう抑え込む必要もないのかもしれない。
そうした所で何の意味があると言うのか。
「さあ、行こうぜ!」
元気良く発せられたエクシゲイザーの言葉。
「この足で皆の所に戻るんだ!」
次いでバックギルドが駆け寄って言った。
その背中は以前より大きくて、間に在る繋がりが確かにあった。
そう、変わったんだ私達は。
もう何も引き留めるものはそこにはない。
ならばそろそろ受け入れてもバチは当たらないんじゃないか?
成り行きにただ身を任せても良いだろう?
誰に問うでもなく出てきた言葉をメモリー上に呼び起こす。
「何してんだ、早く来いよ!」
少し先にいるエクシゲイザーが呼んでいる。
その横でバックギルドは微笑んでこちらを見ていた。
「今行くよ」
急かされてはいたが、敢えてゆっくりとした足取りでファストガンナーは二人の元へ近付いて行った。
<終>
***
バックギルドの腹黒さに、ファストガンナーは困惑しながらも喜んでたらいいと思います。
2011.11.10 up