shiritagaru


 惑星スピーディアでエクシリオンが優勝し、譲り受けたフォースチップと何故かニトロコンボイを加えて戻ってくるとギャラクシーコンボイ総司令官から連絡が入ったのはつい先程のこと。 それは同時にファストエイドの帰還を意味しており、バックパックは顔に笑みを浮かべた。
時々連絡もとっていたし、そんなに時も経っていないが、彼がこの基地からいなくなってからものすごく長い間離れていたように感じていた。
ずっとずっと待ち焦がれていて――。
「只今戻った」
「たっだいま〜!」
「く〜! あのスピード感、気持ち良かったなあ。また勝負しようぜニトロコンボイ!」
「良い意気込みだな、望む所だ受けてたとう」
総司令官を先頭に次々とモニター室に入ってくる。
「おかえりなさい総司令官、そしてみんな」
まず始めに総司令官に挨拶をし、集まった面々に視線を向ける。
勿論ファストエイドにも。
彼は最後辺りに戻ってきたため、遥か後方にいた。
しかし簡単に持ち場を離れる訳にはいかず、だからこそ彼が無事に戻ってきたのをこの目で確認出来ただけでも充分嬉しかった。
 そして待ちに待った真のフォースチップがニトロコンボイの手によってチップスクエアに嵌め込まれる。
フォースチップが光輝き、これで終わりかと思っていた矢先、更に不思議な現象が起きた。
「バックパック、解析を頼む!」
「はい!」
頭上に総司令官の声が降ってきたので、モニターに向き直り今の状況を分析。
「どうやら北極圏での反応のようです」
モニターに写し出された一面真っ白い地と轟々たる吹雪。
「うっひょーすげえなあ」
ライガージャックが驚きの声を漏らした。
「デストロンが気付くのも時間の問題か……のんびりしてられないな」
「そうだな。総司令官、どうしましょう?」
ガードシェルとドレッドロックの台詞にギャラクシーコンボイはモニターを見詰める。
「……済まないが、治療は大きな傷のみとし、早速向かってくれないか。ドレッドロックとバックパックが一緒ならば勢力も充分だろう」
「了解です、総司令官」
「わかりました」
ドレッドロックとファストエイドが答えると場所はそのままで素早く診断が始まった。
しかしバックパックはギャラクシーコンボイを見上げたまま動かない。
「総司令官、それって……」
様子に気付いたギャラクシーコンボイがバックパックに視線を向ける。
「本調子じゃないエクシリオン達に大きな危害が及ばないよう、君達が力を出す番だ」
「総司令官……っ!」
久しぶりに言い渡されたオペレーター以外での任務。
「はい!」
自分が直接皆の役に立てるかもしれなくて、バックパックは嬉しそうに返事をした。
「少しなら猶予はある、それまでに準備をしてくれ!」
「了解!」


 辺り一面真っ白い中を手分けして探る北極圏探索組一行。
「うー……やっぱり寒いのは苦手だなあ」
「俺もだよ、タイヤがちっとも温まんねえ」
バックパックが漏らすとエクシリオンが反応して言う。
「今回は無茶するなよ」
「わかってるって!」
後方でファストエイドに言われてエクシリオンは少しムッとして答えた。
どうせこんな場所じゃろくにスピードも出せないし、等とぶつくさ呟いているが特に気にもとめず先へと進む。
「それに“あんなん”じゃあ躍起になる訳にもいかないっていうかさあ」
前方を早々と走る青い装甲車を見ながらボソリと言うエクシリオンに、ファストエイドも前方に目を向ける。
総司令官から「君達が力を出す番」と言われて余程嬉しかったのだろう。
やる気充分に任務へ移った彼はいつにも増して活き活きしているようだった。
実際、あまり力の出せない今のエクシリオン達にとっては有難い事に変わりはない。
「この状況に甘えてみるのもいいんじゃないの?」
ヘヘヘッと笑う水色のスポーツカーに「それもそうだな」とファストエイドも小さく笑って同意した。
「しっかしずーっとこんな景色なんだなあ北極って。ホントどこまでも真っ白」
 モニター画面ではなく実際に目にする風景に圧倒されて、感心に似た感情をバックパックは表した。
「殆どが水が変化したもので出来てるからな。それに場所によっては猛吹雪もある」
「だから地形は一定に保たれていない。その上天候も様変わり、厄介だね〜」
話に加わったのはファストエイドだった。
エクシリオンはというと、そういった話は得意ではなく興味もないために別の場所の探索に向かっていた。
「でもこういうの、いいですね」
北極のような極寒の地もあれば熱帯のようなひたすら緑と水と高温の場所もある。
地球って面白いね、とバックパック。
「バックパックは地球が好きなんだな」
「うん、好き」
きっとバド達の影響もあるのだろう。
親しき者が出来て、そこに居られる楽しさと安心感があって。
正直羨ましいな、とファストエイドは頭の中で思った。
「私にも欲しいものだ」
「え? 何ですか?」
「いや、なんでもないよ」
ビークルモードからロボットモードへとトランスフォームしたファストエイドがどこまでも広がる氷と雪の景色を眺める。
同じくロボットモードへとトランスフォームしたバックパックがその隣に並んで視線を向けた。
「早くグランドブラックホールをどうにかしたいな」
「そうですね、セイバートロン星のためにも、この星を含む宇宙のためにも」
「ああ……」
ファストエイドにとっては他の仲間に比べて足を地に着けた時間は数知れず、まだ思い入れの少ない地球という星。
故郷であるセイバートロン星だけでなく“この星のために”なんて不思議とそう思ってしまうのは何故なのだろうか。
眺めながらファストエイドはぼんやりと考えていた。


「……あんたらさあ、いつまでそうやってんの?」
 突如聞こえた声はエクシリオンのものだった。
「時間無いんだからさっさと行こうぜ。ここには何もねえよ」
どうやら二人がああしている間に一通り見て回ったらしい。
動いていたのが自分だけだったので、少し不服そうに言うだけ言うとさっさと背を向けて走り出してしまった。
「ああっゴメン!」
任されたのに失態だと思ったのだろう。
バックパックが直ぐ様ビークルモードにトランスフォームしてその後に続いた。
「この星のために、か」
何故か、なんて考えていても仕方がない。
今はこの探索を遂行するだけだ。
小さくなっていく二つの後ろ姿を見ながら少しして、ファストエイドもビークルモードへとトランスフォームし二人を追ったのだった。


「すみません総司令官、これといって手掛かりは掴めませんでした……」
 北極圏探索から戻った一行は、スタースクリーム達との交戦はあったものの、フォースチップに反応した光の原因は結局見付けられず。
一足先に惑星アニマトロスへと向かっていたギャラクシーコンボイに項垂れながら通信での報告をしていた。
「いや、気にするな。皆ご苦労だった」
しかし協力しても成果が出なかった事に空気は重いまま。
その雰囲気の中、口を開いたのはギャラクシーコンボイだった。
「こんな時に済まないが、何名かこちらに来てくれないか?」
「総司令官、どうかなさったんですか?」
応えたのはドレッドロックで、皆も同じように次の言葉を待つ。
「フレイムコンボイと対戦する事になりそうだ……」
避けられないと予想していただけに驚きは無かったが、実現して妙な緊張が漂う。
「そのために皆にも万全の状態で準備をお願いしたい」
相手はフレイムコンボイ。 その力はあのマスターメガトロンをも納得させる程で、とてつもなく強力なのは既に周知の事。
「ここからが正念場ですね、任せてください」
ドレッドロックの言葉にギャラクシーコンボイは少し安心したような顔をする。
「済まない、すぐに戻る」
最後にプツリと短い電子音がして通信は切れた。
「フレイムコンボイか……厳しい戦いになりそうだな」
「ああ、だからこそ全力を出し切る覚悟で挑まなければ。私達は早速治療しに向かうとしよう」
「よっし、任せたぜファストエイド!」
「総司令官が戻られたら連絡します!」
エクシリオンとニトロコンボイ達はコビーとファストエイド等と共に治療室へ、バックパックとドレッドロックは指令室内の各持ち場へと向かった。


 時は過ぎ、迫ってきたフレイムコンボイとの決戦の時。
ファストエイドはギャラクシーコンボイのメンテナンスを行っていた。
「OK。何の問題もありません、ギャラクシーコンボイ総司令官」
「ありがとう、ファストエイド」
メンテが終わると途端に始まったのは子供達のお願い。
どうしても惑星アニマトロスに行きたいらしい。
ドレッドロックが頭を悩ませつつも一騒ぎした結果、ニトロコンボイが付き添うということでローリが一緒に向かう事となった。
「よし、惑星アニマトロスへ行こう!」
「了解!!」
気合いの入った掛け声の後、各自駆け出す。
そんな中、ギャラクシーコンボイに声をかける姿があった。
「総司令官、頼みたい事があります」


 ベクタープライムの力によりギャラクシーコンボイ達は惑星アニマトロスへと降り立っていった。
「総司令官……」
「きっと大丈夫です。ライガージャックやエクシリオン達が一緒なんですから」
心配げなドレッドロックを安心させるようにバックパックが言う。
「ああ、そうだな」
小さく息を吐いた。
「と言うことで」
バックパックがモニターを操作すると、微かに見覚えある景色が画面に映し出された。
「これは……北極じゃないか」
メモリーから呼び起こされた情報を音声回路へ繋げる。
「惑星アニマトロスに向かわれる直前にギャラクシーコンボイ総司令官から通信がありまして、地球に残っている者は北極圏調査を継続せよとの事です」
ピッピッと情報を確認しながらバックパックが言った。
「そうか、わかった」
では早速……と動こうとしたドレッドロックを素早くバックパックが制する。
「あ、副指令はいいですよ」
「え……」
「もうすぐかと……あっ来た来た」
背後でドアの開く音がしたので振り返ると、そこにはファストエイドの姿があった。
「耐寒装置、作ってきたよ」
何やらファストエイドに手際よく装着して貰っているバックパックを見ながらドレッドロックの頭にはハテナマーク。
次第に嫌な予感がしてきだした。
ま、まさか……。
「おっおい、お前達何をするつもr……」
「北極圏調査は僕達が行ってくるんで、副指令はココお願いします!」
「な、なにぃ!?」
仄かに勘づいていた事が口にされた。
「そういう事になったんで、頼みますよ副指令殿」
「え、ちょっ……」
トランスフォーム! とビークルモードへと変形した二人は素早い足取りで指令室を後にした。
残されたのはガクリと項垂れる抹茶色の大きな機体。
「俺がお留守番か……」
深い溜め息をついてドレッドロックはモニター画面に顔を向ける。
「みんな、総司令官、どうかご無事で……」
ついさっき旅立ったばかりなのだが、惑星アニマトロスの景色に戻されたそれを見詰めて呟いた。


 一方、北極圏へ足を運んだ二人は。
「ひぃ〜相変わらずの寒さだ」
「気を付けろよ、お前チェーン付けてないんだから」
「だってあれ居心地悪いんだもん」
豪雪地帯に適応した車の装備があるとコビーに聞いて律儀に装着したファストエイド。 対してバックパックはどうも気に入らなかったようで、積極的に使おうとはしなかった。
「そういえば、どうして自ら北極圏探索を希望したんですか?」
進みながらバックパックはずっと疑問に思っていた事を口にした。
再び一緒に任務ができて嬉しくはあったが、フォースチップのために惑星アニマトロスへ総司令官達が向かった今、誰もがそっちを優先する事はいわずもがな。
しかも、いつ結果が出るかもわからない北極圏探索である。
訊かれたファストエイドは暫く何かを考える。
「……少しでも地球の事を知りたいと思ってね」
「地球の事を?」
そう、君が好きな地球をね。
「ただ情報をメモリーに書き込んでいくだけなら簡単な作業だ。でもそうじゃなく、実際に見て、感じて、触れて、考えて、そうやって知っていきたいんだ」
その台詞をバックパックは無言で聞いていた。
「せっかく地球に我々の基地を造ったんだ。いつまでいられるかはわからないが、そうしなきゃ損な気分じゃないか?」
「……うん、そうですね」
自分の内なる想いを伝えたのに対してバックパックの声は小さく、ファストエイドは少し不安になった。
何かマズイ事でも言ったのかと考える。
しかし振り向いたバックパックは笑顔だった。
「そんなに一つの星のこと真剣に考えてたなんて意外だなあ。ファストエイドが地球の事知りたがってるって言ったら、バド達きっと喜びます!」
この場にいない人物の名前が出てきて少し呆気にとられる。
バックパックは本当に子供達と仲が良いな。
「僕も嬉しいです、ファストエイドに興味持って貰えて」
照れながら笑う顔に釘付けになった。
――そんなに君の気を引くこの星の魅力を知りたい。
いや、違う。この星が好きな君を知りたい――。
「今度、地球のこと教えてくれないか、バックパック」
「え? うん、いいですけど」
僕でいいの? と言いたげなバックパック。
――いいや、君じゃなきゃだめなんだ。君じゃなければ意味がない。
そう言いたかった。伝えたかった。
だけど、今はそんな時じゃ無いとファストエイドは気持ちを押し込めて先を急いだ。


「反応が特に強かったのはこの辺りなんですよね」
 立ち止まった先を見渡す。
ここからはあの日スタースクリームにと交戦した場所がすぐそこに確認できた。
不覚にも氷漬けにされて半ば袋叩き状態でカッコ悪かったなあ、と思い出したバックパックは苦笑い。
「あの時ここも見て回りはしたんだけどな」
「ま、もう一度調べてみても損はないかと」
「そうだな、念のためにも。二手に分かれるとしよう」
「りょーかい!」
ビークルモードへ変形した二人は各々に背を向けて辺りの調査に向かっていった。


君を知りたくて、君の近くにいたくて、君の好きなものを知りたがる。


<終>


***

20話でのバックパックがやたら張り切ってて面白かったのと、21話への流れがいまいちよくわからず自分なりに解釈。と妄想。
そして22話で惑星アニマトロスに向かわなかったファストエイドを使って、突然終了した北極圏探索に行かせてみた。
陰で北極圏探索続行するためにファストさんは残ったのかなと脳内補完してます。

ファストエイドのフォースチップは地球。エクシリオンはスピーディアなのに、彼は地球。 それはファストエイドが地球に対して何らかの想いがあったからだと思います (逆にエクシリオンはスピーディアに執着心があった)。そこにバックパックが関係してたらいいな。

22話でスタースクリームも惑星アニマトロスに行っていたので、北極圏探索はきっと何の問題無く遂行できてたんだろうな。調査結果はどうあれ。
それ故に地球居残り組は和気藹々としてそうだ。


2011.11.02 up