バドとバクパクと副指令
地球サイバトロン基地、メインコンピュータールーム。
普段なら総司令官を中心に皆集まり何かと騒がしいこの場。
しかし今日はこれといって争い事も無いために各々自由に出払っており、ガラン
としていた。
「ん〜……、大丈夫そうだ」
モニター前に座って画面を見つめながら、サイバトロン軍のオペレーター役であるバックパックは異常が無い事を確認する。
それを聞いた途端、目を輝かせる幼い少年が一人。
「ホント! ホントに!」
「うん、暫くは安全だよ、バド」
金髪にニット帽を被った少年バドは、バックパックの言葉に歓喜の声を上げた。
「し〜! あんまり騒ぐと気付かれちゃうよ」
「あっ!」
バドは咄嗟に口を塞ぎ小声で謝る。
その仕草が可笑しくてバックパックは笑顔を浮かべた。
「じゃあ見付かっちゃう前に行こうか」
「うん!」
トランスフォーム! とビークルモードに変形したバックパックが「さあ乗って」とバドに合図を送る。
そして嬉しそうに満面の笑みを浮かべたバドが運転席に乗り込もうとした時であった。
「どこに向かおうとしているんだ?」
驚いたバックパックとバドが声のした方を振り向いた。
コンピュータールームの出入口に突如現れたのは、バックパックより一回り大きな抹茶色の機体。
「ふ、副司令……!」
焦りつつも、バドが離れたのを確認してバックパックはロボットモードに変形する。
「今度はどこにお出掛けだ?」
かけられた言葉にドキリと二人が反応したのを見逃さず、ドレッドロックは溜め息をついた。
「バックパック、何度も言ってるだろ。バドは人間だし、まだ子供だ。危険な目に合わせるのは良くない」
「わ、わかってます副司令。でも……」
バックパックは一度バドを振り返り、再び前方へ視線を戻した。
きっとバドに何度もお願いされたのだろう。
トランスフォーマー達の中では比較的子供達と仲が良くて何かと付き合いの良い彼の事だから、バドに提案されて断れなかったのは難なく予想が出来る。
「えっと……」
弁解のしようもなく、ばつが悪そうに上目がちに顔を向けるバックパックとバドに、ドレッドロックは片手を額に当て二度目の溜め息。
「君達には困ったものだ」
「すみません副司令……」
ドレッドロックはこういう事に関してかなり厳しくて口煩い。
絶対に無理だろう、とバドが半ば諦めモードに入ろうとした時だった。
「でも今日だけ、今日だけは許して貰えないでしょうか!!」
「バックパック……!」
祈願するバックパックに驚いたバドが見上げる。
「以前からバドと約束していたんです。ここ最近忙しくてバド達と遊べなかったし、それで今日時間が出来たから……」
いつもなら有無を言わさず却下するドレッドロックだったか、今は珍しく俯き加減で無言のまま話に耳を傾けている。
そのせいもあって、次に何を言われるのかとバックパックに不安を助長させた。
「それに今日はデストロン軍に動きは見られないですし、安全は確認済みです。
暫くの間なら大丈夫ですし、万が一バドに何かあった時の責任は僕が……」
最後まで言いきらぬうちにドレッドロックに無言のまま視線を向けられ、少しビックリしたバックパックは言葉を途切れさせてしまう。
「安心できると言い切れるか?」
「…………へ?」
かけられた問いが飲み込めなくてバックパックは少々間の抜けた返事をしてしまった。
「バドが外出しても安心できるのか?」
「僕なら大丈夫だよ!!」
咄嗟に返答したのはバド本人だった。
「僕だって自分の身は自分で守れるし、バックパックがいれば頼りになるし、いざとなったらバックパックが助けてくれる……ううん、いざなんて事態無いよ!」
「バド……」
「第一、わがまま言ったのは僕なんだ、バックパックを責めないであげてよドレッドロック!」
バドが弁解するのは既にドレッドロックにはわかっていた事だった。
ただこんなにも懸命なバドの姿に、どれほどバックパックが好かれているのか感じずにはいられなくて、ここに来て三度目の溜め息をついた。
そんなドレッドロックの様子に却下されると解釈したらしい。
「ふ、副司令……やっぱりダメですか?」
バックパックが残念そうに首を傾けて覗き込む。
――まったく……。
「安全確保は万全なんだろ」
「え? は、はい……」
「なら気を付けて行ってくるんだな」
「副司令!?」
驚いたバックパックがドレッドロックのもとに少し歩み寄る。
「危険な真似は絶対にするな。無事に帰ってくること」
「はい!」
「やった〜!」
叶った事に喜ぶ二人にドレッドロックも少しだけ口元を緩ませた。
「ただし、ギャラクシーコンボイ総司令官にだけは伝えるのが条件だ」
私から話しておこう、と付け加えるとバドがドレッドロックの足元まで駆け寄ってきた。
「さっすがドレッドロック!!」
話がわかるね〜、と調子の良いバドに先程までの張り詰めた空気はどこへやら。
「良かったねバックパック!」
「うん、バド! 副司令ありがとうございます!」
子供達の話を聞いてくれて、同じ立場で話してくれる。
同じように感じてくれるからこそバックパックは子供達にこんなにも好かれている。
好奇心旺盛で遊び盛りな子供達にはそれが一番なんだろう。
心配性でどちらかというと親のような立場の自分には到底立てない位置だな、とドレッドロックは思った。
「そこまで任せてしまうのは悪いので、僕も一緒に総司令官の所まで向かいます!」
「バックパックが行くなら僕も行くよ!」
ドレッドロックの足元からバックパックのもとへ歩みながらバドが言った。
「いいのか? ギャラクシーコンボイ総司令官は私より頑固な部分があるぞ?」
ドレッドロックの言葉にバドは「ヘヘン!」と自信ありげに答えた。
「僕とバックパックなら怖いもの無しだね!」
バド、それはちょっと言い過ぎじゃないかな、と少し弱気なバックパック。
「あ、でも許しを貰った副司令も一緒だからかなり心強いですね」
ふと言われた事が予想外で、しかも嬉しそうに言うものだから、ドレッドロックの思考回路は一時停止。
「バックパック……」
「そうだよ、ドレッドロックと三人で説得すれば百人力だよ!」
「バド……」
既に乗り気な二人は嬉しそうに顔を向かい合わせている。
もしかしたら自分は今まで損してきたかもしれない。
こんなにも容易く目の前の存在を喜ばせる事ができたなんて。
理由はどうあれ、こんなにも自分を頼りにしてくれるなんて。
なんだ、簡単な事だったんじゃないか。
まあ理屈は頭でわかっていても、ドレッドロックの性分上、実行するのに難しいのは変わりないが。
「副司令、本当にありがとうございます!」
「さあ、行くとしよう」
でも彼にとっては大きな前進で、嬉しくなったドレッドロックは気付かれないよう小さく微笑んでいた。
<終>
***
“副指令はサイバトロンのお母さん的存在”
そんなお話。
DVDブックレットでのインタビューで副指令の中の人が言ってるんだよね。
そう思って演技している中の人の想いにほんわか和みます。
加えて可愛いと思ってる部下はバクパクだけとw(みんなタメ口だもんね)
厳しくて、自分の気持ちを相手に伝えるのが上手くない。そんな副指令が好きです。
2011.12.02 up